2013年01月27日

「恩を仇で返す」と中国メディア記者の声:昨日のツイートから

(このエントリは、昨日のエントリ「内向きの日本、日本人は気づいているのか?」の続きです。まだお読みでないかたは昨日のエントリからどうぞ)

日本の政治家や外交官は中国においても日本メディア相手にはたびたびぶら下がりを実施し、自分たちの活動状況を伝え、日本にいる人たちはそれを読んで「彼らも中国で頑張っている」と信じている。でも、その「彼ら」が中国メディアを呼んで自分たちの主張を伝えようとしていないことは、日本メディアも興味&テーマ外だから書くことはない。

つまり、我々日本人は日本メディアを通じて「中国に向けて我が国関係者は説得努力を、交流努力を続けている」と思い込んでいる話の多くは、当事者である日本の外交官、政治家の口からのみ知らされているだけで、実際には受け手である中国の人たちの状況などの事情は裏付けされていない。つまり、「言ったもん勝ち」。これじゃ中国政府と同じじゃん。

きっとそういう政治家や外交官は「中国のメディアは当局の舌だから」とか「こっちの言ったことをその通りに書いてくれない」とか言うんだろう(大使館員はそう言ったしね)。でも、起こったばかりの「南方週末」事件を知ってるか? あの事件で声を上げた編集部員たちと同じように「事実」を掘り起こそうとしているメディアを、ジャーナリストを知っているか?


もしここで「知らない」と言うのであれば、日本側の不勉強だ。大使館員の不勉強だ。日本政府の不勉強だ。それすら調べずにどうやって中国で広報をするのだ? 彼らは中国で何をしてるのだ? 日本にいる人たちが彼らに何を期待しているのか、いやどんな役目を任せているのか、分かっているのか?

自分たちでニュースを探ろう、情報を探しだそう、日本側の意見を直接聞こうとやって来た中国人記者に門戸を開こうともせずに、「言ったことをその通りに書いてくれない」とうそぶくのは、ただの言い逃れだ。たとえ中国当局の禁令で日本側の言い分を「書けな」くても、言葉は良心と見識を持った記者たちの耳に残る。彼らは自分たちの判断と言葉を、微博やブログや口伝えで仲間に伝える。

筆は折られても、魂を売っていないジャーナリストはゴロゴロいる。優秀なジャーナリストが軒並みなぜ中国のネトサヨサイトで「親日」という理由で首吊りにされているのか? それは彼らが自分が知っている本当の「日本」の姿を、正式な記事にはできなくてもいろんな方法で人々に伝えているからだ。

先日も朝日新聞による防衛相発言の大誤報が中国の政府メディアに転載され、「すわ、日本が攻撃体制に」と大騒ぎになりかけた時、出てきてやんわり誤報を指摘したのも記者会見に出席していた、日本語が流暢な中国人記者だった。…そういう中国メディアの良心とあの手この手の努力を知らずして、「言いたいことを書いてくれない」からとシカトする日本。イジメ体制をそのまんま体現している日本政府。

記者クラブ体制で美味しい思いしか知らない日本の政治家や外交官は、自分の思い通りに事を持って行ってくれない、自分の思いが通じないから「知らない顔」を「外す」ことしか考えないようだ。外国に行くということは「知らない人と会う」「知らない人と語る」「知らない言葉に翻訳される」ことを受け入れることだ。なのに、日本人記者しか相手にしない。それで外交といえるのか? 外交というのはトップリーダーと会見の席で会うことだけを指すのか? 日本は、外交官も政治家ももっと真摯に国を代表して外国と付き合うことを考えるべきだ。外国と向き合うことに取り組むべきだ。

中国に駐在する日本メディアは、「中国メディアと日本大使館の関係」とか取材しないから、この事実をほとんどの日本人は知らない。いやわたしも知らなかった、中国人記者からの「通訳待機要請」が来るまでは。日本メディアの人たちは気づいていたはずだが、日本訪中団の記者会見に行っても発表される情報を持ち帰って記事にすることは「仕事」でも、そこに中国メディアが招待されているか(つまり訪中団が中国にアピールしているのか)とかは日本の現地駐在記者の「仕事」の範囲とされていない。

いや、逃げ口上はいくらでもある。でも、中国メディアの日本語が流暢な日本担当記者ですら、昨年中国を訪れた要人の中国メディア向け記者会見は一度も開かれなかった、呼ばれなかったと言っている。昨年などは日本から訪中した要人らが中国メディア向けに開いた記者会見は一回も開かれてないそうだ。開かれるのは「ぜひ宣伝して」とばかりのPR目的の交流成果達成報告会のみ。――この事実をどう考えるのか? これを尋ねても日本大使館は「開けるものは開いてますよ…」とお茶を濁している。

山口公明党代表の訪中なんか、ほとんどの中国メディアが「新華社電原稿」を転送している中、日本メディア向け会見を聞きつけてやってきた、現場精神たっぷりの中国メディア関係者に対して、日本大使館員が「一瞥もしなかった」という情報すら入ってきた。現場にいた中国メディア記者の中からは、(中国的には新華社電を転送すればよかったけど、日本のナマの声を聞こうとわざわざやってきたのに)「恩を仇で返すに等しい行為だ」と言う声まで上がっている。「日本」は一体、誰をシカトしてるのかわかってるのかな?

日本政府よ、日本大使館よ、国会議員のみなさんよ、これで日中関係が「本当に良くなる」と思ってるわけ?

追記)
日本語の通訳を付けず中国メディアに向かい合わなかった結果、中国当局が一方的に流した情報によって報道は「中国は大物の態度で日本との対話のドアを開いた」に書き換えられてしまう。「中国はその鷹揚な態度によって、『対話を拒絶した』わけではないと示した」と。これでいいの? これが日本の国益なわけ? 

このフェニックステレビでは関連報道の別枠で、山口さんの記者会見で知り合いの日本人記者に通訳してもらった記者がそこで語られた内容を伝えて全体のバランスを取っている。でも、ほとんどの中国メディアはそれすらもできない、いや連絡をもらっていなくて出席すらしていないので、新華社の統一原稿を流すのみ。



posted by wanzee at 10:17 | Comment(1) | TrackBack(0) | ニッポンのこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
南方週末事件には鳥肌が立ちましたね。毎日、南方都市報を読んでいる者として余計に感動しました。時間がなくて全部読めないのが悔しいです。その分厚さ、記事の豊富さ、記者の個性の現れようなんかは、日本にいる日本人にはわからないんでしょうね、きっと。この事件の詳細は日本でも報道されているようでしたが、テレビしか見ない人たちは相変わらず、わかったようなことを言うんでしょうね。時に新華社の記事を転載せざるを得ない状況は当分変わらないのでしょうが、いつだったか、大変短い新華社の記事に、太字で3箇所も、「新華社配信」といった記述があって、「どうして?多過ぎない?」と感じた記憶があります。つまり、「この記事は俺達の意志で載せてるんじゃないぞ! しょうがなく載せてるんだよ」的なメッセージを感じて、独り「おーっ!」となりました。南方都市報の記事の長さ、正確さ(一部の新華社配信記事以外)、記者の気概の現れようは、世界に誇れるものだと自分は思います。日本のジャーナリズムより、遥かにいいものです。ふるまいさんもすごいいいと自分は思います。
Posted by りちゃ at 2013年02月23日 04:15
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