2011年05月04日

「誰が艾未未を恐れてるのか/Who's Afraid of Ai Weiwei」

中国の社会派芸術家艾未未(あい・うぇいうぇい)が、4月3日に北京首都空港から香港経由で台湾に向かおうとしたところを拘束されてから、すでに1カ月が経った。日本では震災報道の陰でほとんど詳細な報道はなされておらず、わたしもいくつかの媒体に執筆の企画を出したが断られ、結局ほとんどの人が、艾未未という人物の存在から、この事件の重要性までを知らずにいる。

それでも艾未未の背景についてはネットで検索していただけば、だいたいのものが出てくるのでここでは詳しく述べない。彼はある意味、庶民的な生活を芸術行動に昇華させて、世界の人々に中国の姿(グロテスクさ、摩訶不思議さ、かわいらしさ、ハチャメチャさなど)を知らしめてきた。作品ジャンルは彫刻だったり、焼き物だったり、絵画だったり、写真だったり、パフォーマンスだったり、ビデオだったり、と、彼自身が混とんとする中国をそのまま表してきた。だから、彼の拘束は世界のトップ美術界で大騒ぎになっており、釈放を求める署名も超有名美術館関係者が名前を連ねる騒ぎになっている。

その彼のここ数年の活動のおともにひょこひょこと顔を見せていたのが、ロック歌手の左小祖咒(ずおしゃお・ずーじょう)だ。彼を知る人は皆、「祖咒」(ずーじょう)と呼ぶ。「詛咒」(これも「ずーじょう」と読む)と言えば「呪い」の意味だから、中国人が聴いても摩訶不思議な名前だが、彼のロックも念仏とうなりと、そして呪いのような、しかし、つぶやきともとれる不思議な音楽だ。わたしはこの祖咒とは十数年来の知り合いだが、人がいいんだか、冷たいんだか、恐いんだか、なつっこいんだか、よく分からない不思議な人物である。意地悪されたことは一度もないんだけど。

その祖咒が、先月末の香港紙「明報」が特集した艾未未失踪事件の記事の中で、珍しく艾未未像を語っていた。その文調は日ごろの彼らしく、また皮肉とねじった愛情と友情が入り混じっていて、彼自身の声が聞こえてくるようだ。中国ロック界の雄・祖咒と中国美術界の雄・艾未未の交流をご覧いただきたい。

おれと艾おやじのこと/左小祖咒
 
 やつは中国屈指の、おれにとって尊敬に値する、政治家的な頭脳を持った芸術家だ。いかなる場合でも、政治観念はともかくおいといて、今日、艾未未の人格と勇気に並ぶものはいない。たくさんいるやつの有名人の友だちや、あるいはやつの援助を受けたことがある人のほとんどが、この事件ではやつのために屁ほどの音すら立てようとしない。この地でやってけなくなるのが恐いのさ。だからね、この艾未未事件は将来、一つの分水嶺と見なされるようになり、今後5年、あるいは10年間、本当の話をする勇気を持った人間はますます減っていくだろうさね。
 
 おれが艾未未さんと知り合って18年になる。あの時のおれはまだ25にもなっておらず、やつも35を過ぎたばかりで、おれは北京東村(注:当時フリーの芸術家が多く暮らしていた)で暮らし、やつはニューヨークの「東村」(イーストビレッジ)から帰ってきたばかりだった。この18年間、おれたちは時々顔を合わせるどころか、ほぼ毎月必ず顔を合わせて飯を食い、大ボラこきながら、互いに「なんでお前みたいなくだらん奴と知り合ったんだろうな?」と笑い合う仲だった。艾の最大の長所は芸術じゃない、無類の食い物好きというとこだ。揚げ物や紅焼肉、豚のナックルにデザートってのがやつの好物で、チョコレートがあればもっといい。どうせ、やつは今捕まっちまったからね、ちょっとやそっとじゃ出てこれまい。だからぜーんぶバラしとくよ。やつは食うことに関しては、三高(血圧、血糖、コレステロール)になってからのここ数年も減らしちゃいなかった。おれたちの関係は食い物でつながってて、食い物に依存した、とてもヒューマンなものなんだけど、こんな特殊な時期にヒューマニティを看板にするのもまったくいろいろ面倒だよな。
 
 10歳以上の年の差はあったが、重要なのはおれたちがよく似た経歴を持ってたことだ。やつは子供のころ、政治批判された父親の艾青(詩人)とともに新疆石河子の田舎に流され、食い物に対しては苦しみに近い思いを抱いて育った。俺はと言えば、家の事情で子供のころから江蘇省北部のド田舎に住む、母方の祖父の家に預けられ、当時の話ではやつとの共通点がたくさんあった。たとえば、朝起きたら夜に焚いた灯油ランプのせいで鼻の穴が真っ黒になってた、とかね。
 
いいやつさ、でも時にキツイけどね
 
 艾未未は底辺の生活をしている庶民が不公平な目に遭うのが我慢できなかった。12年間、アメリカで暮らしてたときもそうだったらしい。アメリカ政府のひどい写真をたくさん撮って、あちこちで発表したり、他の方法でニューヨークの街角に張り付けたり、とかね。ニューヨークの街角で暮らす黒人たちとも親しく、アレン・ギンズバーグとかの詩人とも個人的な付き合いがあって、そんなやつらと「堕落したアメリカ!」なんて騒いでたらしい。先年、北京で開かれた写真展でアメリカ時代に撮った、血だらけの衝突写真とか、あと姜文(俳優、映画監督)とか、馮小剛(映画監督)、陳凱歌(映画監督)、譚盾(作曲家)とかがニューヨークで苦しみながらもギラギラしてた時代の写真が並んでた。アメリカでむちゃくちゃな、でも面白いことをいっぱいしてきたよ、と言ってた。つまりね、艾未未が政府を悩ませたのは中国でだけじゃなかったってことさ。
 
 やつはいいやつだよ、でも時にはキツいけどね。本当にやつの風刺の効いたおしゃべりを受けとめられるやつなんてそれほどいなくて、よくやつのそばで苦笑してる人がいる。やつの冗談にはどう受け止めればいいのか分からないものが本当に多いからね。特に有名になってからやつを訪ねてやってくる連中はただただ我慢するしかなかったろうね。というのも、その頃のやつはまさに口に蓋をせず、当局者を敵に回してたからね。
 
 おれが書いた雄叫びの歌だって、「それでも音楽かよ?」ってケチつけられたよ。「ロック歌手なんて脳みそぼろぼろ。崔健(ロックミュージシャン)もだめだ。おまえだってたいしたこたない。考えてることは女をたらしこむこととか、酒を飲むこととか、ケンカのことばかり。喧嘩するならなんで警察を殴りに行かないんだよ?」てね。やつは楊佳(08年、上海の警察署に殴り込みをかけて複数の警察官を殺傷、同年死刑になった青年。詳細は:http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/report/report4_1322.html )を気に入っていた。警察に滅多打ちにされたのに、楊佳が乗りこんで行って警官を殺したからだ。こんなことをおれが持ち出してんのは、別に中国政府に対して法を曲げて艾未未を釈放しろって言ってるわけじゃないぜ。政府だって別にそんなに力まなくたってやつの悪口を言いふらした後で釈放すればいいだろ。とにかく捕まえてるよりはそっちの方が絶対いいはずだ。拘束が長くなればなるほど艾未未の歴史的地位が高まるわけで、艾未未のそんな罠に引っ掛からない方がいいぜ! つか、だいたいお前ら、やつを拘束してなんになるんだ?
 
 政治は堅苦しい。だから、おれは政治が嫌いなのさ。もし、政客にユーモアがあればやつをひっとらえたりはしないだろうから、やつらもそれを冗談だとは思っていないんだな。胡錦涛主席と温総理、この二人の同志はなかなかいいじゃないか。人民だってさ、キリストにすがるように執政党に要求を突き付けちゃいけないんじゃないか、やつらは神じゃないんだから。特にここ数年、中国政府は艾未未のようなやつらに対して妾のように我慢してきたんだぜ。おれは艾おやじの友だちだけど、おれをひどいやつだと思ってるやつもいる。やつの手のうち明かしたり、バカにしたり、てね。おれは艾未未同志もやり過ぎだと思う、中国政府の方がもっと同情に値するよ。艾未未だってよ、そこまでやることないだろうに。
 
 だいたいさ、中国なんて上から下までぶっ壊れてて、ニセモノづくりが本業で、産業の世界にはなんの信頼も良心もないんだぜ。どれだけのものを安心して食えるよ? 庶民は奴隷になりきってて、民主なんてわかりゃしねぇ、だから民主なんて無理なの。大げさに公平を求めれば気持ちもハイになるし、ハイになってその気になって、政府をやってやろーと思えばどうなるか。そんなの、あったりまえだろ。
 
 人はね、他人の口から聞いたことなんか信じちゃいけないんだ。でも、中国政府だってこれは絶対やっちゃいけなかったことをやっちまったね。その事件はまさに艾未未の身の上に起こったことで、おれも現場にいた。2009年8月12日、艾未未が成都の安逸158旅館で警察に殴られた事件だよ。おれは弟分としてやつと一緒に成都に行ってたんだ。北京首都空港に着いて初めておれは、その旅が酒を飲みに行くんじゃなくて、譚作人という人のために証言に行くんだと知った。譚作人って(2008年)5月12日の地震で亡くなった学生たちのリストを調査してた人だ。その日の真夜中に、艾は成都の旅館で包囲され殴られた。
 
 艾は遠出をするときはいつもおれに声をかけるのさ。おれならやつの面倒を見ることができるし、一緒に遊べるからね。その後、ミュンヘンで個展を前にして艾は病院で脳の手術を受けた。その前も後も成都の警察はずっと艾を殴ったことを認めてないけど、ばっくれるなんて恥知らずだよ。あれが普通の公民の身に起こったんだったら違っただろうけどね。艾はおれの前でこの事件のことをほとんど口にしないけど、あの事件がやつにもたらした影響がでかかったことをおれは知っている。これが艾と政府の「近代史」における恨みつらみの一つのはずだ。
 
「監獄の中で自殺なんかしない」
 
 やつはおれが政治を嫌いで、政治の話をするのも嫌がることを知っている。同時に、やつはおれがもう一人の楊佳だってことも知っている。もし誰かがおれを怒らせたら、おれは必ず相手が間違いを認めるまで徹底的に戦う。もし相手がおれの友だちに失礼なことをしても、徹底的に戦う。艾未未はおれの本当の友達なんだ。
 
 やつは捕まる3日前、自分のためにずっと前に買っておいた墓地におれを連れて行き、そこからそれほど離れていない秦城監獄(北京郊外の政治犯を収容する刑務所)を指さして言った。「おれは監獄の中で、自殺なんかしないぜ」。

// 「明報」4月26日世紀版:Who's Afraid of Ai Weiwei/誰不愛艾未未「我與老艾之二三事」
 


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